『ベートーヴェン』に寄せて
お久しぶりです、悠です。
いろいろあって、しばらくブログはお休みしていましたが、少し落ち着いてきたので、『ベートーヴェン』の感想を綴ってみたいと思います。
賛否あり、好みの分かれる作品ではありますが、個人的には、観たかった花芳がここに!という感じで、かなり楽しめました。
ベートーヴェンさんとその音楽はふわっと好きですが、歴史にも詳しくないし、クラシックにも詳しくないので、完全なるフィクションとして認識していたのが良かったのかもしれません。
ルートヴィヒとトニ、カスパールとヨハンナなど……アーカイブを繰り返し観ているうちに、演出や構成の意図がわかってきて、格段に作品の魅力が増しました。
というわけで、何度も見返したいので、円盤が欲しくて仕方ありません。
芳雄さんの圧倒的な存在感はもちろん、やっぱり私は、花總まりさんという俳優に心底惚れきっているんだと痛感しました。
というわけで、『ベートーヴェン』について、さらっと振り返ってみるので、お時間のある方はぜひどうぞ。
芳雄ルートヴィヒの圧倒的な存在感
『ベートーヴェン』では、とにかく芳雄さんが歌いまくる。
その歌声を余すことなく堪能できるのは、この作品の大きな魅力だと思う。
迫力ある力強い歌声から、優しく包み込むような歌声まで。
場面ごとに多様な歌声を使い分け、劇場によって響かせ方を使い分け、どの瞬間も観客を圧倒する歌声を聴かせてくれる。
元々、芳雄さんの歌声には絶対的な信頼を置いているが、今回は特に、井上芳雄だからこそできる役だと強く感じた。
難曲を歌いこなし、芝居歌を深め、出ずっぱりで舞台を引っ張る。
圧巻だった。
偏屈で、気難しくて、でも、愛に飢えた寂しがり屋。
そんな役をやらせたら、右に出るものはいないのではないかと思わせるほどのぴったり具合に、感動した。
ベートーヴェンを演じる芳雄さんが一番好きかもしれないというレベルで、個人的にはしっくりきている。
才能に溺れることなく、自らの意思で絶望と向き合い、愛を胸に運命を掴み取ろうとする姿。
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンという人物の、絶望に打ちひしがれても何度でも立ち上がる姿を、全身全霊で表現し尽くした芳雄さんは、本当に素晴らしかった。
芳雄さんの素晴らしさは、私よりもファンの方のほうがもっとたくさん知っていると思うけれど、今回、その魅力を再度発見できて、とても幸せだった。
(今回は細かいお芝居の変化を語れるほど、回数を観れていないのが残念なのですが、ファンのみなさんの素敵な感想を見て、脳内補填しています。それをもとにアーカイブを何度も見返しては、新たな発見をしてわくわくする……そんな日々でした。井上芳雄さん、改めて素晴らしい俳優さんだなと感じました。)
守りたくなる花トニ
子どもたちがいながら不倫に走る身勝手な女性、というイメージを持たれかねない、難しい役どころを演じた花總さん。
彼女の演技は、やはり凄かった。
私は花總まりという俳優のいちファンだ。
宝塚時代から、彼女の演技がとにかく好きで、ずっと追いかけてきた。
今でも、私の心を最も揺さぶるのは、彼女である。
今回の『ベートーヴェン』では、大好きな花總さんが、さらに高みへ登っていく瞬間を目撃した。
進化した歌唱、迫力が増した低音。
それにより、これまでよりもさらに表現の幅が広がった芝居歌。
圧巻だったし、壮絶だった。
全編通して、「千のナイフ」が一番印象に残っている。
とにかく凄かった。
歌い上げる花總さんの歌声は、魂の叫びそのもので鳥肌が立ったし、胸がぎゅっと締めつけられるようだった。
ボロボロと涙を流しながら、感情のすべてを歌に乗せてぶつける姿に、全身が震えるくらいの衝撃を受けた。
というか、劇場が震えていたと思う。
これだけのキャリアを持つ花總さんが、さらに高みを目指して、進化と挑戦を続けているということが、最高に格好良い。
芝居の組み立て方も、セリフのように滑らかな芝居歌も、全編通して素晴らしかった。
ルートヴィヒがトニに惹かれるように、気がつけば私も、トニを守りたい、救いたいと思っていたし、フランツのことは、蹴り飛ばしたくなるくらいムカついた。
花總さんが演じると、どんな役でも、その背景をもっと深堀りしたくなる。
今回もそうだった。
トニとフランツ、トニとベッティーナのこれまでの関係性。
トニにとっての父親の存在。
トニにとっての音楽の存在。
トニというひとりの人間を、もっと知りたくなった。
“黄金の檻”の中にいたトニが、ルートヴィヒと出会ってから変化していく姿が印象的。
上流階級の女性らしく、慎ましやかで大人しかったトニが、家庭内での絶対的な権力者である夫のフランツに対して、はっきりと自分の思いをぶつける様に、胸がすく思いだった。
遅すぎる自我の目覚めを見たような、そんな感覚。
いろいろな意見はあると思うが、人間らしいトニの生き方は、嫌いじゃないなと思った。
人は、自分に嘘をついては生きられない。
否、生きられたとしても、それは本当の自分の人生とは呼べない。
どんな環境にいようとも、どんな人間であろうとも、一度は悩みぶつかるであろう、人生の息苦しさが伝わってきて、しんどいものがあった。
キンスキー邸でベートーヴェンを心配そうに見つめる姿、庭園で子どもたちと歌う朗らかな母の顔、ベッティーナの愛の話を聴いて、自らの孤独を改めて実感する物憂げな表情……。
自然なお芝居と、美しく上品な佇まいに、思わず目を奪われてしまう。
ルートヴィヒとの再会で、そわそわしながら楽譜を取りに走り去る姿があまりにも可愛くて、ニヤけてしまった。
バーデンにルートヴィヒを訪ねていくというのは、おそらくトニにとっては勇気のいる行動だったはずで。
ここでぐっと2人の心が近づくのもわかる気がした。
ルートヴィヒといるときのトニは、表情のバリエーションが増えて、より生き生きしてみえる。
彼と出会い、言葉を交わし、同じ時を過ごし、心を通じ合わせていく過程で、ルートヴィヒだけでなく、トニもどんどんと変化していくのが良かった。
トニは、フランツにも自らの心を伝えようとするけれど、彼には届かない。
お互いに歩み寄ることができないままに時間だけを重ねてしまったフランツとトニ、過ごした時間は短くとも、お互いに敬意を払い、心を理解しようと歩み寄ったルートヴィヒとトニ。
この対比が切なかった。
ゆったりとしたテンポと響く低音が、トニの虚しさや苦しみを際立たせる「Magic Moon」は、個人的に好きなナンバーである。
花總さんの静かな芝居歌が心に残っている。
一度は忘れようとしたものの、偶然という名の運命に導かれるように再会したルートヴィヒとトニ。
トニの大切なものを大切にしようとしないフランツ、フランツの一番大切なものを理解できないトニ。
夫とは絶対に理解し合えないのだと突きつけられた後に、かつて一瞬でも心を通わせた、運命の人に再会したトニは、どれだけ救われただろうか。
それを思うと、この愛は不倫だから悪、と決めつけるのは、些か短絡的に思えてしまった。
秘密の花園で、ルートヴィヒを思い苦悩する姿も、自分を迎えに来たルートヴィヒに対して、揺れる心を抑えようと必死な姿も、トニの心の動きが繊細に表現されていて、引き込まれた。
フランツとトニの「恥知らず」ソングは、曲のインパクトが強い。
我が家では、気づけば口ずさんでいる楽曲ランキング堂々の1位である。
もしかすると、フランツは、自我を持つひとりの人間としてのトニの姿を、ここで初めて知ったのではなかろうか。
フランツに掴まれた腕を振り払って、振り返ることなく去っていくトニが、印象的だった。
慎ましやかで大人しかったトニが、自らの感情をあらわにして、幸せを掴み取ろうと藻掻く姿に、心動かされる。
この作品は、ルートヴィヒの成長だけでなく、トニの成長も描いているのだと感じた。
演じたのが花總さんだったからこそ、ここまでトニについて深く考察できたし、トニというキャラクターに思いを馳せることができた。
芳雄さんと花總さん、この2人だからこそ、ここまで『ベートーヴェン』という作品が美味しく調理されたのだと思う。
日本初演作品ということで、作品としては、おそらくこれからもどんどん進化していくと思うが、俳優陣の巧みな演技で、ここまでの完成度を作り上げたことに、心から敬意を評したい。
そして、やっぱり、私は花總さんのお芝居が一番好きだ……と改めて実感した。
これからも、花總さんを応援し続けたいし、花總さんの演じる様々な役に出会えるのが楽しみである。
(いろいろな役を演じる花總さんが観たい気持ちと同時に、花マリーにも花トニにも、もう一度会いたいと思う我儘なファンなので……。どうか再演でも花總さんのトニに会えますように……。)
芳雄さんと花總さん
歌声を操ってお芝居をする芳雄さんと、お芝居が歌と融合する花總さん。
というのが、個人的な2人のイメージである。
どちらもプロフェッショナルなことに変わりはないが、完全に同じタイプではないと思っている。
その2人が掛け合わさると、双方が双方の長所に引っ張られて、どんどん高みに登っていく感覚になるのが楽しい。
相手役を3割増し、否、5割増しで魅力的にみせることに定評のある花總さんと、相手役に合わせて柔軟なお芝居をする印象がある芳雄さんが組めば、そりゃあこうなることは必然といえば必然なのだが。
最高の相乗効果だった。
これこそ求めていた花芳であり芳花……。
この2人で、人間同士のお芝居をもっと観てみたいと強く思った。
ラブストーリーでもよし、バディものでもよし……何ならガッツリ敵同士でも面白い。
セリフのやり取りみたいに自然に歌うので、歌詞がするっと入ってくるし、互いに相手に合わせるのが上手いので、観ていて気持ちがいい。
本物のプロフェッショナルとは、彼らのことを言うんだなと改めて実感した。
そして、今回どうしても言及したいのは、大楽のカーテンコールである。
スタッフを労い、オーケストラを労い、共に作品を駆け抜けたキャストを労い……。
自らが最も負担の大きい主演という役割を担いながらも、各方面を気遣う素敵なご挨拶をされた芳雄さんが、くるりと花總さんの方に向き直ったとき、ときめきの予感がした……。
照れながらも、花總さんの目を見て、感謝と尊敬を伝える芳雄さん。
「一緒にできて嬉しかった」「尊敬する人」という芳雄さんからの言葉は、花總さんのファンとして、とても嬉しかった。
それを受け止めつつ、盛大に照れる花總さんが、これまた可愛い。
さらに、伝え終えてほっとしている芳雄さんに対して、花總さんから発せられた「芳雄くんとできて良かった」の言葉……ドラマみたいな可愛いやり取りを目撃し、何故かこっちまで照れてしまった。
そこにすかさず突っ込むさかけんさんと、フォローする小野田さん、可愛いリアクションをするキャストのみなさんも相まって、笑いと涙とときめき溢れる、素敵なカーテンコールだった。
トークの達人である芳雄さんが、結構素で照れていたのが新鮮で、良いカンパニーなんだなと改めて実感した。
またこのカンパニー、芳雄ルートヴィヒ、花トニに再び会える日が来ることを願っている。
(全編感想を書き連ねたいところですが、如何せん『ベートーヴェン』に関しては、語るに落ちる……というか、言葉にするほど上手く伝わらない気がしてしまうので、このあたりにしておきます。私自身、初めての観劇体験だったので、劇場で観たときは衝撃を受けました。クラシック音楽の旋律に歌詞を乗せて、とにかく音がどんどん迫ってくるような迫力は、体感してこそ伝わると思うので、再演が決まった暁には、みなさまぜひ劇場へ……。)
実力のある豪華なキャスト
フランツ
やたらめったら良い声で、金の歌を高らかに歌い上げるフランツ2人は、ムカつくし、怖いし……という感じだったが、何度もアーカイブを見返していると、なんとなく哀れにも思えてきて不思議だった。
どちらのフランツも、トニに執着しているような気がしてならない。
さかけんさんは、「恥知らず」ソングで、結構わかりやすく動揺していたが、ブラックシュガーは比較的淡白に見えるので、色恋云々とは違う執着なのかなと感じた。
配信で両方を観た結果、私の中では、さかけんさんのフランツは嫉妬による執着、ブラックシュガーフランツは所有欲による執着、という解釈に落ち着いている。
トニを手放したくないさかけんフランツと、トニを手放す気など毛頭ないブラックシュガーフランツ、といったイメージ。
2人とも、とにかく怖かった。
特に、花マリー×シュガルイの組み合わせが好きなMAオタクとしては、しんどかった……。
シュガーさん、今度こそ花總さんと幸せな結婚生活を送る役を演じてね……。
さかけんさん、大楽カテコ、笑いと涙とときめきを巻き起こしてくれてありがとう……。
私のさかけんさん遍歴が、エベールとフランツだけなので、いつか良い人を演じている姿を拝見したい……と思うなどした。
カスパール
兄の足りない部分をこっそり助けつつ、自分もそれなりの人生経験を積んでいそうな小野田カスパールと、ピュアで、ずっと兄に守られてきた、世間知らずな弟っぽい海宝カスパール。
どちらも違って、どちらも素敵だった。
劇場で初めて海宝カスパールを観たときは、歌がうますぎる!!と衝撃を受けたし、配信で小野田カスパールを観たときは、芝居が好きすぎる!!と衝撃を受けた。
どちらも良い味を出していたが、個人的には、小野田カスパールの役作りがめちゃくちゃ好みだったので、今後、小野田さん要注目である。
2人とも素敵な俳優さんなので、いずれはベートーヴェンも……と思わんこともないが、まだしばらくは芳雄ルートヴィヒを堪能したい……と贅沢な悩みを抱えてしまった。
最後に
感想の言語化が難しくて、細かい部分については、考えるな!感じろ!的なテンションで書き綴ってしまいました。
『ベートーヴェン』は、とにかく観て体感してほしい、そんな作品です。
脚本や演出、楽曲のアレンジ等、好みは分かれそうですが、私は楽しめました。
観れば観るほど味わい深く、配信アーカイブで何度も見返すことができて、嬉しかったです。
何度も観て、何度も聴いていると、だんだんとクセになってくる……。
個人的には、歌詞の翻訳も好きなので、CDと歌詞カードも欲しいくらいです。
家では、気づいたら恥知らずソングを口ずさんだりしています。
日本初演ということで、これからブラッシュアップしていく作品だとは思いますが、初演がこのカンパニーで本当に良かったと思いました。
繰り返しになりますが、このカンパニーの『ベートーヴェン』にまた会えることを、心から願っています。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
では、また。